『ジャコメッティとともに』

著者/矢内原 伊作

 出版年/1969

出版社/筑摩書房

 

の 読書感想文

  

 

『問題は、ぼくが自由に精一杯生きるということだ、パリででも日本ででも。たとえ世の中がぼくにとってうとましく、ぼくが人々との間に越えがたい距離を感じ、恐ろしい空虚の中で生きるとしても、それを生きることがどうしてやり甲斐のないことであるはずがあろう。』

([ジャコメッティとともに]より)

 

仕事をすることで、これを示し、仕事をしている姿を見て、これを悟る。

そんな経験できるだろうか。 

もし、この本を読んでいなかったら、そういう経験をした人がいたことすら知らなかっただろう。

 

 

ヤナイハラ『「哲学者も詩人も、粘土の代りに言葉を用いて真理を刻むのです。」』

ジャコメッティ『「そうだ、究極はすべてポエジーだ。とジャコメッティは言った。「ポエジーのない哲学はない。(中略)」』

ヤナイハラ『「そうです、深い思想は詩を要求します。」』

([ジャコメッティとの対話]より)

(参考:『武者小路実篤詩集』の読書感想文

 

深く掘ると詩になる。詩になるまで掘れということか。

何を使って、どうやって掘るか。

ヤナイハラはヤナイハラのやり方でもがく。

 

 

『ともかく、とぼくは考えていた。ともかく仕事をしなければならない、ジャコメッティがこうして粘土をもってその眼に見える真実と取り組んでいるように、ぼくは言葉をもってぼくの眼に見える真実と取り組まなければならない、それにしても粘土にくらべて言葉というものは何とやくざな素材だろう、と。』

([ジャコメッティとの対話]より)

 

言葉はどうしてもデジタル。

でも言葉にしかできないこともある。

言葉のおかげで、そしてヤナイハラがもがいたおかげで、この本が存在する。

ここに感謝している読者がいるよ。きっとほかにもいるよ。

 

 

『生活と芸術の双方を貫く根本の原理、一口に言えば、それは現実が無限に豊かだということであり、その実感は充実した無限の自由の意識である。』

([ジャコメッティとともに]より)

 

現実を美しいと感じている芸術家ジャコメッティは、その美しい現実をありのままキャンバスに描こうとする。

見えるままを描くなんて実は不可能なのでは。

誰もやらないとジャコメッティは嘆くが、不可能だからなのでは。

そして哲学者ヤナイハラは現実をありのまま書きとめようとする。

これも不可能だ。

 

そもそも、現実を美しいと感じるかどうかだ。

描こう、書こうの動機。

 

 

『「明日こそ」』

『「早くあしたになればよい。」』

([ジャコメッティとともに]より)

 

一番難しいのは希望を持ち続けることか。

これ本当に、みんなどうしているんだろう。

 

 

『ぼくがねむくないのは、今日パリを発つことにきまっているから昂奮しているためではない。それがきまっていないからこそ、ぼくは気を張りつめて可能が不可能に、不可能が可能に転ずることを警戒していなければならないのである。大事なことは今日発つことをぼくが選んだことではない、それを今日刻々にぼくが選ぶということだ。なぜなら、ぼくは恐ろしいほど自由なのだから。』

([ジャコメッティとともに]より)

 

恐ろしいほど自由だから、実は心のどこかで縛ってくれるものを求めているのかも。

自由だと、ぐらぐらし放題。ぐらぐらがあまりに続くと苦しい。

 

 

『行動を決定するものは意志だが、意志を決定するものは何だろう。』

([ジャコメッティとともに]より)

 

何だろう。

 

 

 

生まれ変わるとしたら何になりたいか、という話も印象に残った。

ヤナイハラはまた自分になりたい、と言ってみんなに驚かれていた。

 

 

 

矢内原の文章、べたつきが少なくて、好きです。単純に上手い。

 

 

2012/01/11up

2012/02/21更新

     

 

この本『ジャコメッティとともに』(1969筑摩書房)は絶版になっています。

読みたい方は古本を探してみてくださいな。

 

以下、参考までに目次の章題。

 

 

序 ジャコメッティからの手紙

第一部 ジャコメッティとの対話

第ニ部 ジャコメッティとともに

 付録Tジャコメッティのテキスト

     1昨日、動く砂は

     2夢・スフィンクス楼・Tの死

     3ピエール・マチスへの手紙

     4模写についてのノート

   Uその後のジャコメッティ

   Vジャコメッティの生涯と作品

   Wジャコメッティ年譜

あとがき

 

 

 

 

 

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