第29回企画展 相撲 ―いにしえの力士の姿―
および 常設展
於・行田市郷土博物館
の目撃談 (2015の19)
第29回企画展 相撲 ―いにしえの力士の姿―
埴輪の力士の出で立ちは、現代の力士とは異なっています。 なにしろ当時は蹴りもあり、だったらしい。
今も昔も共通しているのは、まわしをしている点。
ほかは? 今の力士の特徴は、大銀杏を結っていることと、まわし以外に何も着けないことでしょう。
埴輪の力士の髪型は、はっきりしません。 カチューシャ状に表現されていることが多く、扁平髷と呼んでいるらしい。 そして埴輪の力士は、まわし以外にも、何かしら身につけていることがけっこうあります。
まずは埼玉県行田市酒巻14号墳出土の力士埴輪。美豆良(みずら)に着衣という、不思議な力士。 小さめの上げ美豆良を結っている。 ちなみに、和名埴輪窯跡出土の力士埴輪も美豆良を結っていて、笄(こうがい)帽らしきものを被っている。 酒巻14号のほうも、頭のてっぺんはとんがり気味で、何かが付いていた跡がある。 耳輪、これはそんなに珍しくないと思うが、少数派。 首飾り、これは珍しい。 上着の襟がある。ということは、服を着ている。 服の上からまわし。そのまわしの左右に、鈴らしきものが付いている。 ズボンは、同じ酒巻14号出土の筒袖男子と同様、すとんと真直ぐ。足結(あゆい)なし。 よく考えたら、上半身が細すぎる。力士なのに。下腹が出ているのは、その分を補うためか。 もっとも、腰が張っているのは、二本足の埴輪に共通する特徴だ。 まわしをしていなかったら、力士かどうかわからない。全体が出土していて良かった。 まわしがなかったとしても、足結なしのズボンと美豆良の組み合わせは珍しい。
うーむ。のっけから謎が多い。
大阪府高槻市今城塚古墳出土の力士埴輪。腕に飾りを巻いている。 何度目かのお目通り。(発掘された日本列島2014 の目撃談) 腕に巻いたものに、丸いものが付いている。左右、4つぐらいずつ。 攻撃のための武器か、音を鳴らすための鈴か、純粋に飾りか。 結んだ先は、垂らされている。布か革か。 足結をしている。だいぶ復元だが、こちらも結んだ先を垂らしている。飾りはなし。 扁平髷。裸足。 耳輪か耳がついている。
和歌山県和歌山市井辺八幡山古墳出土の力士埴輪。ハチマキに入れ墨にひげ。 手首から先が欠損しているが、腕を前に出している。 何かを捧げ持っているのか、それとも取組相手につかみかかっているのか。 この古墳からは、力士が2体出土しているらしい。 ハチマキを巻いている。背後に回ると交叉しているようだ。 その下に、ひと房の垂れ髪。 ほか、顔の入墨や、ひげなど、チェックポイント満載。 足結あり。裸足。このあたりは珍しくはない。
神奈川県厚木市飯山登山(どうやま)1号墳出土の力士埴輪。坊主頭に足のトゲ。 なんと坊主頭。これは他に類がない。 足の甲にトゲ。左右5つずつ。かなり鋭角。飾りとは思われない。 足の指先は出ているので、甲にくくりつけているのか。サンダルか。 足結はなし。 腕は欠損している。つけねの角度から、上に挙げていることが分かる。 ウエストくびれ気味。 頬に赤く彩色あり。耳輪をしている。 大きな目を細め、何ともよい表情。
トゲの付いた足だけが出土している例もあり。 神奈川県川崎市末長久保台遺跡、佐賀県鳥栖市岡寺古墳など。
大阪府高槻市の昼神車塚古墳出土の力士埴輪。ペンダントに玉飾り。 胸にペンダントのようなものを下げている。これは他にない。 腕には玉飾り(鈴かも)の付いた紐を巻いている。 足にも玉状のものが付いている。紐表現はなし。 耳輪らしきものをつけている。 扁平髷。裸足。
和歌山県和歌山市大日山 35 号墳出土の力士埴輪。 珍しい埴輪が多数出土している古墳。 力士は、頭部など欠けているのが惜しい。 足結あり。 図録によると、足には他に玉状のものがところどころ付いているらしい。
群馬県高崎市の保渡田Z遺跡出土の力士埴輪。 上半身のみ。広がり気味の扁平髷。 顔や髷に赤い彩色あり。
出土地不明の力士埴輪。 かつて長瀞綜合博物館に所蔵されていた。今は、さきたま史跡の博物館所蔵。 扁平髷。裸足。 足結はなし。 へそ部分に透孔。
ちょっとまとめよう。
力士埴輪の絶対条件。 ひとつは、まわしをしていること。 もうひとつあるとすれば、二本足であることでしょう。 まわしを表すためには、下半身を省略するわけにはいかない。
力士埴輪に多いものと少ないもの。 かなり多数派なのは、扁平髷と裸足。 比較的多いのは、足結と太めの体型。 はちまき、腕飾り、耳輪、足のトゲなどは、まちまち。 美豆良、帽子、坊主頭、首飾りやペンダント、まわしに飾り、衣服、くつ、などは珍しい。
髪型とまわしはともかく、ほとんどが飾りでしょう。 取組の際には外したのでは。トゲ以外は。 トゲは使い方が気になる。 足の甲だから、回し蹴りかな。(足の甲は、空手などでは背足と呼ぶらしい) 足踏まれ防止策だったりして。
今年2015年の列島展で見た陶棺の、つのつのとは関連あるかしら。 ないか。
ポーズについて。
脚。みな同じ。 軽く開いて真っすぐ立ち。 他の二本足埴輪と変わらず。埴輪のつくりから言って、他は難しいためか。 座った力士埴輪は今のところなし。
腕。大きく分けて2パターン。 ひとつは、片手を上に挙げ、もう一方の手を下げている。挙げている手は左右どちらもあり。 もうひとつは、両手を前に出すか上に挙げている。 土俵入りっぽいが、当時おそらく土俵はなかった。 両腕を下げたり、腰に手を当てているものはないようだ。だから腕が欠けがち。
表情。 口を一文字に結んでいるか、軽く開いている。 笑顔ではない。だが、けわしいというほどでもない。
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埴輪ではないが、同時代の力士たち。
装飾須恵器。 相撲を取る人物が付けられている。 しかし小さすぎて、髪形も足先も表現なし、まわしすらなし。
朝鮮半島、高句麗の古墳の壁画の写しあり。 舞踊塚・角抵塚・安岳3号。 みな裸足。足結なし。腕にも何も着けていない。 まわしは、幅があるというか、おしり全体を覆う形。 髷は、頭頂部に高く結っている。
同時代とはいえない力士たち。
《野見宿禰と當麻蹴速対戦之図》伝河鍋暁斎(1831〜1889) 『日本書紀』の相撲話が題材。 伝・河鍋暁斎だが、描き込み具合が暁斎。服を着せたのも、服を細かく描きたかったからかも。 衣服や髪形は、いつ頃のイメージなのか。野見宿禰と當麻蹴速の時代のものではなさそう。 膝から下と肘から先は何も着けていない。 皮を描かず、筋肉だけを描いたみたい。あるいはそういう模様のタイツを履いているみたい。
正直、動きは感じない。 動いていたら、人間の目には見えないはずの細かいところまで描き込まれているからかも。 写実を追及すると、リアルじゃなくなるのか。 ただ、力は確かに感じる。
しかし、ここでも暁斎に会うとは。
ちょっと後の時代の力士たち。
《平安朝相撲人絵巻》石本秋園模写 左端で取組中の二人はやせ気味。優勢なほう、にやついている。「阿闍梨公」とある。 その隣の弓を持つ公家は、なぜか片足立ちでポーズ。たぶん「公持」。
ほかにもいろいろありましたが、どれも力士埴輪と違う。現代の力士に近い。 共通しているのは、結局まわしだけか。
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力士埴輪のことは、力士埴輪に聞くしかないようだ。 いずれ、またどこかで力士埴輪が発掘されたら、新たに何かがわかるかも。 見たこともない不思議な格好をしていたら、新たな謎が増えることになるが。 それはそれで、おもしろい。 出てこい力士埴輪。 どすこい。
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どの埴輪もケース入りだが、埴輪によっては横からも後ろからも見ることができる。 ただ、ケースの位置が高すぎるように感じた。 もっとも、これは見る人の身長にもよる。
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常設展
常設展示室、各時代の展示がさまざまなされているが、目的地まで突き進む。
突き当たりの大きなケースに、酒巻14号墳出土の埴輪が8体。 馬形埴輪2体、馬引き2体、男子埴輪2体、女子埴輪2体。
旗を立てた馬! ついに見られました。 全体に細身。顔も脚も細い。 たてがみも鋭く尖らせたデザイン。 胴体は、首の付け根からお尻にかけ、せりあがっている。 お尻を斜め上に突き出しているかのようだ。
旗はのぼり旗。別づくりで、蛇行状鉄器に差し込むようになっている。 旗だけがかなり赤い。図録(2013)によると、彩色はないらしい。 粘土が違うのか、焼きの違いか。 と思って馬本体を見ると、全体的に白っぽいが、前足の下端が赤い。 焼きの違いっぽい。
目が少し欠けている。そこに表情を感じてしまう。
もう一頭の飾り馬も、プロポーションはだいたい同じ。
埴輪の色、個体によってけっこう色が異なる。同個体でも、色ムラがある。
二本足の男子埴輪が2体。 三角の天冠。 美豆良なし。 首飾りあり。 長くて手が見えない筒袖。 腕を胴体に添わせるつくりのせいか、肘が内側に入っている。 裾のすぼまったズボン。足結なし。
背の高いほうより、袖口が広がっている。 左前の上着のあわせ、2カ所にリボン。結び目はなし。 ふたつの輪がともに右にふくらんでいて、風を受けているかのようだ。 耳輪あり。 大きな目が笑っている。
天冠に円い飾りあり。 他はシンプルだ。耳輪なし。あわせもリボンもなし。 目が寄りぎみ。穏やかな表情。
男子埴輪2体は笑顔だが、女子埴輪2体は一文字口。
全体的に赤っぽい。 頭が長い。大きな円盤状の髷を差し引いても、上半身より大きい。 この埴輪は、上着のあわせのリボン2つの結び目が、大きな丸で表されている。 乳房表現あり。首飾り、耳飾りあり。 目が大きく、眉のあたりや口元がきりっとしているせいか、印象に残る顔。
台座部分など、色ムラがある。 首飾り、耳飾りあり。 上着のあわせ、リボン、乳房表現はなし。 顔は立ち姿の女子と似ている。こちらのほうが、やや困り顔。
馬子2体。 片方は頭巾を被っている。おちょぼ口。切れ長の目。
もう一方は顔面剥離が激しい。精いっぱい直してはあるが、被り物は分からず。 あいまいな笑顔が切ない。
このケースは後ろに回って見ることができない。 後ろのほうに置かれた埴輪、もっと近くで見たかった。
大人塚(うしづか)古墳出土の埴輪。 男子埴輪の頭部。振分け髪。 女子埴輪の頭部。髷に竪櫛。
酒巻15号墳出土の埴輪は、写真のみ。 14号の埴輪もすべて見ることはできなかった。 スペースの都合か、貸し出し中か。いつかお会いしたい。
埴輪以外の考古出土品。
実は考古展示ではじめに目についたのは、大きな須恵器。 最大のもので直径1mくらいある壺4点が、埴輪ケースの前にどどん。迫力。 この大きさの物を高温で焼けたのね。 もちろん埴輪もかなり大きいが。 埴輪は色ムラがあったから、須恵器はきっと別の窯だろうなあ。 ところで、何を入れていたんだろう。
機の部品。 木製です。よく残っていたなあ。
そして下駄。これも木製。 鼻緒が親指寄りである点が、現代と違う特徴だそうな。
行田は足袋のまちだそうだが、さすがにこのころはまだ足袋がなかったことでしょう。
考古以外。
機がありました。これは近代の物でしょう。
再建された忍城御三階櫓へものぼってみる。 力士たちの足袋など。小錦の足は34cmだそうな。 一番上で外をのぞくも、窓の桟と雲に阻まれ、さきたま古墳群は確認できず。
博物館をぐるっと囲む白壁の穴がよい。 ○、△、□(縦長)。厚み方向に傾斜がついている。 もちろん忍城築城当時のものではなく、博物館を建てたときのものでしょうが、 モダンかつ瓦と調和する、すてきなデザイン。
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館内撮影禁止。リンクした先の画像や情報でお楽しみください。 |
図録入手。
『第29回企画展 相撲 ―いにしえの力士の姿―』2015 編集・発行 行田市郷土博物館 (600円)
もう一冊。 『重要文化財修復記念 第27回企画展 北武蔵の埴輪 ―酒巻古墳群を中心として―』2013 編集・発行 行田市郷土博物館 (500円)
4枚一組の埴輪ポストカードセットも。(200円) 旗を立てた馬、力士、坐る女子、筒袖の男子(天冠に円があるほう)。
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混雑状況報告。
空いていましたが、帰りがけに団体さんに遭遇。
埴輪の展示のみ2回。 ほかは見たり見なかったり。
2015/10/27(火)訪問 |
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