恩地孝四郎展
の目撃談 (2016の03)
この人の描く丸には魅力がある。
ほか、直線、四角、曲線、勾玉形などを用いている。 だが、恩地らしさや良さは丸にあるのではなかろうか。 最後のほうの作品に現れる、角の丸い三角も、おっと思わせる。 しかしとにかく、丸のある絵とない絵で違う。
≪詩画集『いのちのうすあかり』≫1911年 うすあかり、というが、なぜかもっと明るい。 強いわけでも軽いわけでもないが、地面を蹴るくらいの力は感じる。
版画に出てくる目は、ルドンっぽい。
タイトルが良い。 その中で、作品そのものも好きなもの。 ≪そらよりくだるかげ(公刊『月映』W)≫1915年 ≪抒情 生はさみし夜半目ざめて泪ながれながる(公刊『月映』V)≫1915年 ≪抒情 くるしみのうちに懐に入るものあり(公刊『月映』V)≫1915年 ≪アマリリス発芽態≫1918年 ≪葉緑の行進≫1918年 ≪空旅抒情≫1938年 ≪春の譜≫1944年 ≪『飛行官能』≫1934年 ≪『季節標』≫1935年
ただ、タイトルに「抒情」と入れるのは、ちょっとどうかと思う。 うっかりするとタイトル負け。
しかしタイトルがないよりはずっと良い。 名無しの作品は、記憶にとどめにくくなる。
≪抒情 『あかるい時』版木≫1915年 彫りの多いほう、キラキラしてました。 版画の色の濃いほうも。これがキラ刷りか。
油彩。タッチやモチーフに、セザンヌとデ・キリコの影響を強く感じる。
≪黒布の林檎≫1919年 セザンヌ感強いながら、それだけではない独自のものがある。 立ち止まらせる。
≪静物(リンゴ赤)≫1922年 これは確かに階段を一段あがった作品。 タッチや色遣いの繊細さ。
≪野の属≫1935年 3点組で≪海の属≫≪山の属≫とセットの作品だが、恩地は野に属する人ではなかろうか。
このあたりから、なんだかよい。
≪赤い花≫1947年 初めに会場をさっと回った時に、目にとまった。 恩地の色は白みの強い水色だと思うが、赤もいい。
≪ポエムNo.8 蝶の季節≫1948年 蝶は丸に次ぐ恩地の鍵モチーフかも。
≪ポエムNo.13≫1950年 本展一番。 恩地の色。恩地のモチーフ。 らしさが出ていて、なおかつ、よけいなものがない。
≪リリックNo. 12 たよりない希望≫1951年
≪フォルムNo.13 黒のかさなり≫1951年 真っ黒はこの人向きじゃないが、実験的なところもよい。
≪ポエム20 No.3 貝の中の童話≫1952年 ≪ポエム20 No.4 雲の中の童話≫1952年 ≪リリックNo. 29 かなしき自足≫1953年
タイトルについて再び。 ひらがなとカタカナと漢字のバランスが、独特だがよい。
本の装丁多数。
文字作品に奥行きと手触りを添える恩地。 個性が強烈過ぎないので適任かな。
中ではやはり、萩原朔太郎『月に吠える』が印象的。 ポール・ゴーギャン『ノア・ノア』も。
ここにもいた武者小路実篤『小さき運命』、この本はフォントだけのよう。
音楽作品との相性も、けして悪くないようだが、印象が弱いように思った。
具象はあまり魅かれなかった。 特に人物画はいまひとつ。 昇華が足りないか。
作品数じゅうぶん。作品リストが24ページの冊子になっている。 でも多すぎはしなかった。 会場もぎゅうぎゅう展示ではなかった。 よかった。
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常設というか、コレクション展。2-4F。
ブラックはやっぱり好き。 少しざらつきを感じる表面。
岸田劉生はやっぱりすごい。 あの坂の前では立ち止まらずにいられない。
耳の人、三木富雄。
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混雑状況報告。 最後の夜間開館。結構な盛況。ロッカー満杯。 行列はなし。 版画など小さめの作品を正面から見ようとすると、ちょっと待つことも。 独占は、タイミングを見て短時間ならなんとか。
2往復半。
2016/02/26(金)訪問 |
恩地孝四郎展 巡回展。 2016年1月13日(水)〜2月28日(日)東京国立近代美術館 2016年4月29日(金・祝)〜6月12日(日)和歌山県立近代美術館
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