開館25周年記念 香月泰男と丸木位里・俊、そして川田喜久治
―シベリアシリーズ・原爆の図・地図―
と
企画展 アーティストin湘南3創画会ゆかりの画家たち
於・平塚市美術館
の
目撃談 (2016の22)
工場地帯の中
ちょっとちがう空気がぽっかり
本日の目的地
香月泰男 ―シベリアシリーズ―
香月泰男の作品をある程度まとめて見られるというので、楽しみにしていた。
2012年の近代日本洋画の魅惑の女性像 ―モネ・印象派旗挙げの前後―に ≪ドリルを持つ人≫が出品されていて、始めてその名を知った。 絵のタッチや雰囲気などが、なんとなく好きになった。 <シベリアシリーズ>の存在は知らなかった。 今思えば、ドリルを持っていた人は、おそらくシベリアにいた人だろう。画家本人かもしれない。
本展。
≪雲≫1968年 雪舟の青空映すガスマスク。 青がきれい。
≪別≫1967年 黒い日の丸。
太陽を描いた作品が多かったが、太陽の顔がそれぞれ違う。 日の丸への葛藤があるせいか。 太陽の美しさや明るさに希望を重ねたり、大きさ強さに不安や恐れを重ねたりしているせいか。
≪青の太陽≫1969年 穴に入って空を見つめると、昼間でも星が見えるという。 泰男は蟻がうらやましい。
≪海拉爾(ハイラル)≫1972年 食事のためか、暖を取るためか、煙の上がる家々。 泰男は家族と暮らす人びとがうらやましい。
泰男は死者さえうらやましい。 魂になって日本海を渡って、ふるさとに帰りたい。
泰男の地球の中心は山口県大津郡三隅町。
≪業火≫1970年 燃える兵舎。 最後の悪行を焼き尽くす炎に見えた と泰男は言う。
≪雪山≫1972年 ≪雪≫1963年 泰男のタッチは雪と合う。 しっくりくる。 きれいだなと思ってしまうが、それはそれでいいのでしょう。 泰男はどこにいても画家だった。
≪星<有刺鉄線>夏≫1966年 有刺鉄線の上に星。きらめく。
≪左官≫1956年 セメントも凍るシベリア。 レンガサイズの羊羹が食べたい泰男。
はっ 羊羹をカステラで挟んだお菓子のシベリア≠チて、泰男が由来?
甘いものはいい。おいしい。欲しくなる。 でも泰男に甘さはあんまり似合わないな。
≪−35°≫1971年 画面に文字を書き込む泰男。 なぜか邪魔にならない文字。
説明がないと伝わらない、と、作品に解説をつける泰男。 本展でもほとんどの作品に解説カードがついていました。 これほど文字があると、ほかの展覧会なら、邪魔、多すぎる、と感じるところだ。 が、本展ではうるさく思わなかった。
泰男の言葉や文章のセンスがよいからか。
≪バイカル≫1971年 湖。波。穏やかに見える。
≪点呼≫1971年 この点呼に遅れたら日本に帰れないかもしれない。漂う緊張。 帰国の日まで持ちこたえた自分の体に感謝する泰男。
ふるさとに帰り着いたとき、どんな思いだったのか、想像もつかない。
帰国したあと、日常生活に戻っていく感覚もわからない。 戻るというより、新たに適応するのか。 元には戻れない。
自分を見失った人も、少なくないだろう。 泰男の場合は、シベリアでも絵を描き続けていたから、軸になるところは変わらない。
絵は、軽くはないが、ほのかな明るさがある。 重いというより、張り詰めている。
≪月の出≫1974年 静かで厳か。
角ばった顔、角ばった身体。 特に、四角を繋ぎ合わせて作ったような手。 文字も四角い。
四角い画面を、しかし四隅を残して丸くする。 ベージュを塗ってから描く。
50年代以降のタッチ、というかマチエールというのか、いい。 方解石を使い始めたあたりから変わったらしい。 硬さ、角張りを必要とする泰男に、ぴったりきたのか。
軍事郵便はがき40点。 デッサン。描き続けること。 小さいので、すべてしっかりは見られなかった。
この人の色は黒だろうけど、本展では≪雲≫や≪青の太陽≫の青が印象に残った。
|
丸木位里・俊 ―原爆の図―
2011年の「『日本画』の前衛 1938-1949」展に、位里氏の作品がいくつか出品されていた。 戦争前後、というより原爆前後の作品が展示されていた。 前後どちらの作品にも、ひかれるものがあった。
本展の作品は、どれも原爆がテーマ。
≪原爆の図 第四部《虹》≫1951年 青を使った背景に、白い馬の頭。
|
川田喜久治 ―地図―
2011年の森と芸術 私たちの中にひそむ森の記憶に出品されていた≪地獄の入り口≫。 写真でおっと思う作品は、私の場合めずらしいので、ぼんやりとだが名前が記憶にあった。
本展では、絵と並ぶと写真の存在感はやや弱い。
≪原爆ドーム屋上 セルフポートレイト≫1960-65年 自分の影。 原爆投下の瞬間と、撮影の時点とが重なる。 過去と自分とがつながった記録の一枚。
|
別々の展示で出会っていた作者たち。 これまでは戦争のイメージでとらえてはいなかった。 だが魅力には気づかされていた。
振り返らせる力がなくては、多くの人によって作品が守り伝えられることはないだろう。 何をテ−マにして作品を作ろうと、そこは同じ。
|
香月泰男のハガキが一枚もなくて残念。 あっても買うとは限らないのだが。
図録はありました。 会場内で少しめくってみたものの、なんとなく入手せず。
|
企画展 アーティストin湘南3創画会ゆかりの画家たち
画面の大きさに対抗できていない絵が目に付く。
よかったのは加山又造。馬の絵など。 馬。 丸木の馬に引っ張られたかも。
|
混雑状況報告。
見やすい。 各作品、大きい屏風は別として、独占できる。 近寄って絵具を見ることも、後ろに下がって全体を見ることもできた。
でも途切れず人が訪れる。 他の展覧会に比べ、行きつ戻りつする人、メモを取る人が多かったように思う。
その他。
仕切りにもなっている壁が、床から少し浮いている。 壁の向こうを歩く人の影が、気になる。
ときどき、靴音も気になった。 床の材質なんだろう。注意して見はしなかったが。
明るくて広い美術館。 フライヤーや図録など、図書コーナー充実。 本をめくりだすと知らないうちに時間が過ぎる。
もっといたかったが、明るいうちに引き上げた。
2016/10/18(火)訪問 |
開館25周年記念 香月泰男と丸木位里・俊、そして川田喜久治
会場|平塚市美術館 会期|2016 年9月17日(土) 〜11月20日(日)
|
|