殿塚・姫塚古墳発掘60周年記念 甦る九十九里の埴輪群像 ―3D考古学の挑戦―
の目撃談 (2016の24)
本展では人物埴輪のみ。それがむしろ贅沢。 ほぼ完形のものが12体も並んでいると、壮観です。
以下、カッコ内の番号は展示No.。
(1)アゴヒゲの武人(姫塚古墳出土) ヒゲ埴輪の中でも、特にひげが立派。 立派すぎて、首がない。 美豆良(みずら)は顔の横でモコモコして外に跳ねる。 垂れた小さい目。わずかに開いた一文字の口。 顔の印象はご老人。 だが、左手には大きな大刀をしっかり持っている。 帽子に見える被りものは、後ろは開いていて、支えがある。 三角冠なのか? 鍔はぐるりと360°に広がっている。 あごの下、上着の胸に、赤っぽい色で、鋸歯紋が描かれている。 帯の下から広がる裾には、鋸歯紋が線刻されている。 全体に黒ずんでいる。これは彩色か経年の汚れか?
高さ138.6cmと本展では最も高さがある。 もっと大きい、高さ165cmの埴輪が、同じ姫塚から出ている。 おそらく最大の人物埴輪。 連れてきてほしかったな。写真には載っていた。
(2)アゴヒゲの武人(人形塚古墳出土) 脚結の結び目に、赤い顔料で+印。 袴のひざ下、左右の裾のもようが違って見えた。 左は鋸歯文、右はうろこ紋。に見えた。 くつの縁に、短い線刻(刺突というらしい)が縦に並ぶ。 縫い目を表したか。
(3)アゴヒゲの武人(人形塚古墳出土) 脚結の結び目、ボタンのような平べったい円柱を二つ重ねて、上のボタンは赤く塗られている。 袴のひざ下、赤い水玉模様。 ヒゲは胸につかずに浮いている、という解説だったが、壁ケース入りだったのでよくわからず。 ともかく、姫塚の(1)とは違い、衿より短い。
(4)首飾りをする女子(経僧塚古墳出土) 前に伸ばした手は、しっかり五本の指がある。 指は粘土の板に乗っている。内側から細い指を守っている。 手首から垂れさがる袖。 赤い顔。 耳、左右で位置がずれている。 首飾りは、丸玉と勾玉を連ねている。 解説では丸玉と書かれていたが、これを丸玉と呼んでいいのか。 ボタンのような平べったい円柱なのだが、 真ん中を押してくっつけたらしく、真ん中がへこんでいる。白玉だんご状である。 ともかく二種の玉が交互に連なっているのだが、向かって右端だけリズムが違う… そして後ろは、ない。 いいのだ。それでいいのだ。それでもいいのだ。 ずっしりした埴輪。坐像かもしれない。
(5)甲冑を着けた武人(小川崎台3号墳出土) 指の大きな手。腕は短い。手が肩についているみたい。 前に這い出ようとしているかのようなポーズ。 でもおそらく、ポーズよりもアイテムが重要。 甲冑を身に着け、彼は戦っているのだ。 おそらく。彼と呼んでは見たものの、美豆良がないのが気になる。
(6)琴を弾く男子(殿部田1号墳出土) ばちで琴を弾いている手よりも、胡坐をかいている足のほうが大きいのでは。 えらい前傾姿勢だ。 前に突き出している大きな頭。左右に広がる振り分け髪。 髪を振り乱して、琴をかき鳴らしているのか。 美豆良はしっかり紐でくくってある。
(7)双脚の男子(小川台5古墳出土) 武具が一つもない! 甲冑なし、大刀・弓矢なし。 かといって、鎌・鍬などの農具も持っていない。 ちょっと珍しい。 でも美豆良はしっかりついている。 そして何より、足がしっかり二本ある。 しかし、二本足埴輪にはたいていある円筒台がない。 かなり珍しい。 赤みの強い粘土。
(8)両手を広げる女子(木戸前1号墳出土) エプロンにしか見えない、前に突き出したものを身に着けている。 そのエプロン状のものには鋸歯紋。交互に赤い彩色。 大きな木でも抱えるように、広げてから前に突き出した腕、というか手。 左手は欠損しているが、右手は指がしっかりある。 目と口は、角の丸い四角。ポストの穴をもう少し丸くした感じ。 訴えかけてくる。特に口元。歌っているのか。祈りを唱えているのか。
(9)丸い帽子を被った武人(旭ノ岡古墳古墳出土) なんてチャーミング。そしてこのボリューム。存在感。 九十九里型と下総型が混ざっている。 文化と文化の境界で、ただの組み合わせではなく、融合がなされた。
境界。それは埴輪。埴輪そのもの。
でも混合が進むと、均一になってしまってつまらない。 にじみ具合が重要。
粘土板を貼りつけた顔に、釣り気味の細い目。口は横一文字。下総型。 横に広がった美豆良。 大きな顔に対して小さい丸い帽子。それで頭が収まるのかというくらい小さい。天辺に孔。
ボタン形の玉を連ねた首飾り。胸に垂れ下がる二列もボタン形。
独特の体形。 たいていの人物埴輪は、上半身が逆三角形かずん胴だが、彼はAライン。 胸からお腹に向かって、緩やかに広がっている。 さらに広がる上着の裾が、丸くふくらんだ太ももにかかっている。 袴は格子もよう。
足元は、修復らしい。くつのつま先が、全体のイメージに合わせてか、丸くなっている。 実際には、ヒゲ埴輪たちのように、つま先はとがっていたのでしょう。
(10)天冠状のものを被りものをする男子(山田宝馬35号墳出土) 三角で天を指す被り物。鍔はなく、紐が巡っている。蝶型の飾り付き。 顔つきは、心なしか厳しい。 上着は白。
(11)男子(山田宝馬35号墳出土) 白地に赤の水玉模様の上着。
(12)男子(にわとり塚古墳出土) 肩から緩やかに降ろされた曲線を描く細い腕、指のない手先が外に開くなど、下総らしさ満載。 顔も典型的だが、下総型の中でも特に目が離れている。
殿塚・姫塚古墳発掘60周年記念の展示だが、殿塚古墳出土の埴輪は来ていなかった。 人物埴輪は姫塚より少なかったのかな?
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どの埴輪も、かがんで下から見ると、やはり、ほほ笑んでいる。 埴輪だ。
ボタンのような平べったい円柱。 首飾りの玉や、紐の結び目などの表現に使われているが、実際はこうはならないはず。 埴輪だ。
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だいたい再会埴輪だと思うが、日大で見た(9)以外、はっきり思い出せない。 芝山は埴輪が多いからなあ。 前に見たのはたしか2007年のはにわ祭の日だった。雨だった。
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(11)と (12)の埴輪は、ともに「男子」と記載されていたが、女子ではないか?
解説文の「〜と推定されている」という表現から推察するに、展示側も迷ったらしい。 迷う理由たくさん。
美豆良(みずら)あれば、男子だが、美豆良なし。取れた痕も見当たらず。 ひげがあれば、まず男子だが、ひげなし。 被り物をしていれば、まず男子だが、被り物なし。 よろいを身につけていれば、まず男子だが、よろいなし。 くつを履いていれば、まず男子だが、くつなし。そもそも足なし。
ただし 髷(まげ)があれば、女子だが、髷なし。 胸があれば、まず女子だが、胸なし。
性器があれば、どっちにせよ明確に判別できるが、性器なし。
決め手なし。
だが 女子である確率のほうが高い気がする。 頭部の孔がなす角度が、髷の角度っぽいのだ。 そして孔には何かがついていたらしき痕がある。
確信は持てない。責任も持てない。
この場合は 「人物埴輪」とだけ表記すればよいのでは。
埴輪の性別判定は難しい。
「武人」だったり、単に「男子」だったり。
本展で「武人」とされている埴輪は、男子で武装している、という意味だと思う。 武具のない(7)については、武人とは言えないから、「男子」で正解でしょう。
境界線がはっきりしない。
まずは性別が重要。 大刀や弓を持つ女子埴輪は存在するので、女子で武人という可能性がある。 「武人」表記はなくし、「男子」「女子」のみでいいと思う。
資料名は分かりやすさが第一。
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本展の目玉は、三次元だ。3Dだ。 埴輪は立体物である。
置いてあったiPadを触ってみた。 見学者がほぼいないのをいいことに、ほとんどすべての画像をぐるぐる回して見た。 後で気づいたが、iPadは受付で借りられたらしい。
埴輪に限りませんが、立体物の展示を見ていて、 壁が背のケース入りの埴輪など、後ろが見たいな、とか、 上から見たいな、とか、思うことしばしば。特に被り物。 三次元撮影して見せてくれるというのは、ありがたい試み。 すべての埴輪でやってほしい。
欲を言えば、アップで見せてほしい。 剥離痕があるかどうか、とかね。
実物を、ガラスなどなしで、近くで、照明しっかり当てて見る、が理想。 ちょっと無理か。 一展一体くらいならできる?
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撮影は不可でしたが、図録で満足。500円。 個々の埴輪の写真は、なかなかいい出来です。 そして、(1)、(6)、(12)の前後左右の3D画像が載っていてうれしい。
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会場では、解説文はざっとしか見なかったので、図録で復習。
6世紀の芝山では、大きめの古墳をたくさん造っていた。 埴輪も作っていた。
1956年、殿塚・姫塚古墳の初発掘。 埴輪ぞくぞく。
2012年、殿塚・姫塚古墳の測量・レーダー探査。 古墳くっきり。
埴輪の三次元計測。何年かは不明だが最近らしい。 姫塚古墳の埴輪は、三次元計測に加え、古墳での配列通りに並べた画像を作成。 これをきっかけに、展示も古墳配列通りにしたそうだ。 一目で6世紀に飛べる。大きな成果だ。
もう一度芝山に行きたい。
PEAKITとは? 多種の画像を選択的に重ね合わせて表示する技術。 重ねる画像は、対象物の特性に合わせて選べる。 「開度」画像が基本。 大局的特徴と、局所的特徴を、まとめて一つの画像で見せることができる。
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混雑状況報告。
ほぼ独占状態。 もったいない! 人が押し寄せても困るが。
と思っていたら、出たところで団体さんに出くわす。 あぶなかった。
2016/11/01(火)訪問 |
殿塚・姫塚古墳発掘60周年記念 甦る九十九里の埴輪群像 ―3D考古学の挑戦― 会場:東京都 早稲田大学會津八一記念博物館 企画展示室 開催期間: 2016年10月14日(金)〜11月19日(土) |
実は
埴輪のほかにもさまざまな展示がありました
「近世の禅書画 ―白隠とその会下―」だけ駆け足で見ました。
白隠慧鶴「布袋すたすた坊主」とか
遂翁元盧「寒山拾得図」とか
2階は省略。
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