生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵
於・上野の森美術館
の
目撃談 (2018の24)
青空のもと
木漏れ日あびる《相対性》1953年
マウリッツ・コルネリス・エッシャ−(1898-1972)。
8つのキーワードは、生涯を貫くものらしい。 展示はキーワードごとにまとめられ、製作順ではない。
1.科学
《バルコニー》1945年 リトグラフ 丸く膨れて突き出すバルコニー。 エッシャーぽさがしっかり出ている。
《画廊》1946年 メゾティント ペルシャ神話のシームルグ登場。 エッシャーのシームルグは頭が人間。 この画廊はエッシャー作品のほか、シュルレアリスムの作品の展示によさそう。
《対照(秩序と混沌)》1950年 リトグラフ 秩序は正十二面体。 その周囲に散らばる混沌は、捨てられたものや壊れたもの。 《星》1948年と《二重の惑星》1949年も幾何学模様が凝縮されている。
幾何学的図形の魅力。 埴輪に刻まれた直弧紋や鋸歯紋。
《同心円状の球面片》1953年 木口木版 結晶体と、それを構成する法則。 同年制作の《螺旋》に通ずる。
2.聖書
《天地創造の二日目》1925年 木版 エッシャーにしては、線が粗い。 でも点も線も魅力的。 このシリーズは六日目まであるが、二日目が評判をとったそうな。納得。
《人類の堕落》1927年 木版 リンゴを手にする人間。 巨大なトカゲのようなものがいる。
3. 風景
イタリアへ旅するエッシャー。
《スカンノの街路、アブルッツィ地方》1930年 リトグラフ 路は狭い。 人工的に加工された石は四角い。 階段と石畳は、ゆるやかに幾何学模様をなす。さらに屋根。
《カストロヴァルヴァ、アブルッツィ地方》1930年 リトグラフ 急な谷。ターナー《サン・ゴタール山の峠、悪魔の橋の中央からの眺め、スイス》を思い出す。 谷の上の家々は沈黙する。さらに上では重そうな雲がせり出す。 手前の草花の輪郭がややグロテスク。生命力の表現か。
《トロペア、カラブリア州》1931年 リトグラフ パンケーキもしくはホットケーキを、これでもかと重ね、それを並べたような崖。 その上に家が並ぶ。崖は曲線、家は直線。 エッシャーの描く家はなんだかこわい。 崖の上だからというのではなく、黙って何かたくらんでいるようだ。
《夕暮れ(ローマ)》1946年 メゾティント 2点。どちらも、マグリット《光の帝国》を思い出させる。
サイトによれば、スペインのアルハンブラ宮殿で幾何学な装飾模様と出会い影響を受けたらしい。 アルハンブラ宮殿そのものは描いていないのかな。
4.人物
《婚姻の絆》1956年 リトグラフ リンゴの皮のようなリボンに二人の顔。顔は半分程度ずつしかない。 半分つながっているということ? 二人で一人ということ? 浮遊する球体のいくつかは、頭の中にも入りこむ。 並ぶカップルの頭部という構成は、マグリット《恋人たち》を思い出させる。 顔と帯という組み合わせは、楯築遺跡の施帯紋石を思い出させる。
5.広告
《アッセルベルフのための年賀状》1948年 木版 魚と鳥。船。 年賀状用にあっさりしているのがかえって良い。
6.技法
《生命力》1919年 リノカット(カウンタープルーフ) ひまわり。 前年製作の《ヒマワリ》よりこっちがよかった。
《海上に浮かぶ雲》1919/1920年 リノカット エッシャーの雲は重い。
《地下聖堂での行列》1927年 木版 天井はたくさんのアーチ。 人びとより建物。
《水没した聖堂》1929年 木版 星空から雲が降ってくる。
《眼》1946年 メゾティント 眼に映るは骸骨。 人間の本質は骨か? 人体の中では、確かにいちばん最後まで残る。 古墳時代の人間は骨すら残らないことが珍しくないが。埴輪は残った。 エッシャーもこうして作品が残っている。 マグリットの《偽りの鏡》を思い出させる。こちらの眼に映るは青空。
《表皮》1955年 多色刷り木口木版、木版 表皮の上に横顔。 この作品のための版木も4点展示されていた。 1953年の《同心円状の球面片》と《螺旋》、1956年の《婚姻の絆》と同じジャンルか。
7.反射
《球面鏡のある静物》1934年 リトグラフ シームルグ。こっちが《画廊》(1946年)より先か。 金属の板でつくられているらしき尾羽。球面鏡は鮮明な画面。新聞と本の文字。 質感。
《三つの球体U》1946年 リトグラフ 中央に三つの球体を描くエッシャーらしき人が映る。 右の球は何も映さない。 左側なんだろう。 Uということは、Tもあるということだ。見たい。
《波紋》1950年 多色刷りリノカット それほど細かく描かれているわけではない。そこがいいのか。 なぜか見てしまう作品。
《三つの世界》1955年 リトグラフ 水面に映る木々、水面に浮かぶ木の葉、水中の魚。 以前にも見ている。今回のほうが魅力的に感じた。 繊細。繊細過ぎて、エッシャーらしさは抑えめかも。
三つの世界を描き出す、というとモネを思い出す。
8.錯視
《言葉(地球、空、水)》1942年 リトグラフ 幾何学的なところと、そうでないところとが共存。 六角形の魔法陣みたい。
《昼と夜》1938年 多色刷り木版 四角い畑が鳥となって飛び立つ。
《解放》1955年 リトグラフ 三角が鳥となって飛び立つ。 巻物である。並ぶ三角の下は丸まっている。広げて見たい。
《滝》1961年 リトグラフ これまでは、永遠に流れ続ける水に気をとられていたが、 本展で、建物の二つの頂点に乗っかる多面体に気づかされる。 こいつのしわざか?
《メタモルフォーゼU》1939-1940年 長い。 左右のどっちから見たらいいのかと迷うが、それぞれの向きがあることに気づく。 鳥と蜂は左から右。 魚は右から左。 鳥と魚は逆がありえなくもない。 蜂は幼虫と成虫がいるので、不可逆的だ。 チェスと家はどっちもありかな。でもチェスから家となる右から左がいいと思う。 左右の端は市松もようからの文字Metamorphose。 ちなみに、公式サイトでは左から右に流れている。
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展示は年齢グラフつき。 ターナー展の試みを思い出す。 ターナー 風景の詩(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)の目撃談 展示だけでなく、ターナー展のように作品リストにも年齢を載せてほしかった。
エッシャ−は1898年生まれ。マグリットと同い年。 共通するものを感じるのはそのせいか。
《メタモルフォーゼU》はブラック展を思い出す。 ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容 ―メタモルフォーシス(パナソニック 汐留ミュージアム)の目撃談 ブラックのMétamorphosesは二次元から三次元への変容。 エッシャ−のMetamorphosisは循環。 モチーフに共通するのは魚と鳥。 それから神話。ブラックはギリシア神話、エッシャ−はペルシャ神話。
ところどころに柱があったりで、鑑賞ルートの正解がわからない。 ぐるぐる回っているとき、何度か人とぶつかりそうになった。 混んでいない展覧会なら、おもしろいと思えるかも。
いっそもっと思い切った展示方法ならどうか。 透明な柱にはめ込むとか。天井から吊り下げるとか。
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混雑状況報告。
チケット購入も入場も並ぶ必要なし。 館内は混んでいる。 作品によっては人が渋滞して三重になっていた。 一方で、なぜかぽっかり空いて、作品を独占できたりもする。ただし30秒がいいところ。
2018/7/3(火)訪問 |
ショップを通って出口を出たところでいただきました
あぶらとり紙《描く手》(1948年)と、うちわ《写像球体を持つ手(球面鏡の自画像)》(1935年)
東京展の特別協賛さんから。
ありがとうございます。
◎生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展 奇想版画家の謎を解く8つの鍵
東京展:上野の森美術館 開催期間:2018年6月6日(水)〜7月29日(日)※会期中無休
大阪展:あべのハルカス美術館 開催期間:2018年11月16日(金)〜2019年1月14日(月・祝)
その後、静岡展、愛媛展と続くもよう。
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