没後90年記念 岸田劉生展
(出品リスト)
の
目撃談 (2019の019)
ちらしより
どれもよかった
岸田劉生(1891〜1929)の回顧展。 いろんなところで作品を目にしてきたが、まとめて見るのは初めて。
初期の作品でよかったもの。
銀座と数寄屋橋畔 1910-11年頃 油彩/板 31.0×23.2 郡山市立美術館 日比谷の木立 1912年頃 油彩/板 23.0×31.4 下関市立美術館 自画像 1912年3月14日 油彩/麻布 33.0×24.0 東京都現代美術館 自画像の輪郭の緑色の影は、西洋の油絵を研究した成果だろう。
築地居留地風景 1912年12月23日 油彩/麻布 31.7×40.3 輪郭のない絵。ピンク色がきれい。
「首狩り劉生」と呼ばれるほど、肖像画を描きまくった時期があったらしい。 肖像画はだいたいいい。
Aの肖像 1913年7月8日 油彩/麻布 45.7×38.7 平塚市美術館 これがなんとなくよかった。
肖像画も多いが、本展では自画像の多さが目につく。 1913〜1914あたり、立て続けに描いている。 他人の首だけでは足りなかったらしい。 なかでも自画像いちばんは 自画像 1913年12月25日 油彩/麻布 45.6×38.0 クリスマスの絵。 一時キリスト教徒だった劉生。クリスマスだから思い入れがあるか、関係ないのか、わからないが。
自画像 1914年2月13日 油彩/麻布 45.7×38.0 豊田市美術館 これもよかった。髪を少し切ったらしい。 黄土色の背景。
わたしの本展のめあては武者小路実篤の肖像画。 武者小路実篤像 1914年3月18日 油彩/麻布 38.0×36.5 東京都現代美術館 眼鏡をかけている。口元の表情。耳の描き込み。 背景は黄土色。 ところで、この実篤の肖像画、現代美術館が所蔵しているのね。 劉生で武者なのに、近代じゃないのが不思議。 もちろん近代と現代はつながっているのだけれども。
この少し後の1914年4月10日、麗子誕生。
自画像 1914年5月20日 油彩/麻布 45.5×38.0 岐阜県美術館
画家の妻 1914年8月18日 油彩/麻布 58.0×53.8 妻・蓁(しげる)の肖像画。 これも背景が黄土色。 蓁モデルはほかにもあったけど、変に狙いすぎていないこれが好き。
道路と土手と塀(切通之写生) 1915年11月5日 油彩/麻布 56.0×53.0 東京国立近代美術館 劉生の作品の中では、麗子の次に有名な絵だろう。 この絵はいつ見てもよい。美しく、かつ、力がある。 しかし光が強すぎて、前にも思ったが11月の風景とはとても思えない。夏だ。 劉生の目がもはや夏の太陽なのか。この人のバイタリティはそんな感じだ。
高須光治君之肖像 1915年12月22日 油彩/板 45.5×37.7 豊橋市美術博物館 するどく神経質な印象の顔つき。 木炭画もあった。
冬の崖上の道 1915年12月23日 油彩/麻布 流れる雲がうねっている。 ほかの絵では空がベタ塗り。 崖の上の道の土は、一度ドロドロになったものが乾いた直後といった様相。 この絵の雰囲気のものは他になかった。
壺 1916年4月28日 油彩/板 37.8×26.7 下関市立美術館 艶のある壺。陶器の質感。 リアリティに徹する劉生。
壺の上に林檎が載って在る 1916年11月3日 油彩/板 40.0×29.5 東京国立近代美術館 口部分が変だなと思って半年前の《壺》と見くらべたら、もようから言って同じ壺なのに、こちらは取っ手がない。 取っ手は取れてしまったらしい。 代わりに林檎をのせたのかしら。 しかし林檎より壺に目が行く。
麗子肖像(麗子五歳之像) 1918年10月8日 油彩/麻布 45.3×38.0 東京国立近代美術館 いよいよ麗子。 顔つき、とくに目元口元、肌の光、目の前に麗子がいるようだ。 数え年五歳、実年齢で4歳半の麗子。 赤まんまを持たされている。手つきは子どもらしくない。 ちょっと嘘が入っていると感じる。
麗子坐像 1919年8月23日 油彩/麻布 72.7×60.7 ポーラ美術館 顔、着物、リンゴ、それぞれの質感がはっきり違う。 特に着物の絞りがすばらしい。柔らかくもシャリっとした手触り。 麗子の、猫背というか、お腹が奥に入った姿勢に表情がある。 5歳4か月の子どもがそこにいる。 完成度が高い。本展の麗子のいちばん。
ほかにもいい麗子。 麗子微笑 1920年2月18日 木炭、水彩/紙 50.8×34.2 ポーラ美術館 麗子微笑 1922年5月18日 コンテ/紙 51.0×34.4 麗子 1922年5月18日 コンテ/紙 34.2×25.5
日本画、あまりいいと思わない。 《鵠沼小景》《林六先生閑居図》《塘芽庵主人閑居之図》などの小さな人物は可愛らしくて、悪くはないが。 唯一いいと思ったもの。 瓜之絵 1925年7月 絹本着彩 26.3×28.0 淡い緑に粉が白くふく。輪郭はやわらかい。
竹籠含春 1923年4月9日 油彩/麻布 36.5×44.0 細かく編まれた竹籠、おそらく漆が塗られている。 網の目の丁寧さと艶。見入る。 やはり劉生は油向きだと思う。 活けられた椿はあまり感心しない。むしろ邪魔だ。 劉生の椿捨てたき籠の艶。一句できた。しかしひどい句だ。
満鉄総裁邸の庭 1929年11月 油彩/麻布 60.7×72.9cm ポーラ美術館 最後に展示されていた風景画。 タッチが他と違う。 特に、空がベタ塗りじゃない。 画面が明るく力強い。黄色や橙色の庭の植物から光が差しているようだ。 海が描かれているのもちょっと珍しい。
ああ 劉生があと一年、せめて3か月生きていたら!
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制作の年だけでなく、月日までわかるものが多い。 同じ年に同じテーマで何点も描いているのでありがたいこと。 だいたい制作順どおりに展示されていた。 タッチがどんどん変化していくのがわかっておもしろい。 短い人生ながら精力的に制作した劉生。 どの絵も力強く、不安定さはなかった。
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混雑状況報告。
ほど良い混み具合。 3階は2往復半くらい、2階は一往復半か。 どの絵も少し待てば独占可。 3階の武者の肖像画は連続で3分くらい、合計5分は独占していた。
2019/9/20(金)17時ごろ訪問 |
◎没後90年記念 岸田劉生展 開催期間:2019年8月31日(土)〜10月20日(日)
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